手術中麻酔と死亡リスク
●近代医学の進歩の1つは、手術である。手術によって疾患の原因である臓器や部位に、直接アタックできるようになった。
●手術には欠かせないもの、それは麻酔である。手術がこれほど広範囲にできるようになったのは、ひとえに麻酔術が進歩したからだといっても過言ではない。
●しかし、じつは麻酔のメカニズムは、よくわかっていない。マジシャンのように、頭の上でパチンと指をならすことで、眠ったり起きたりするということは、少なくとも医学の領域では、認められていない。
●半年ほど前のことだが、米国のLA timesが、麻酔が患者の命を縮めているという記事を報じていた。
●以下はその記事から。最近の2つの研究によって、術中の麻酔は、じつは術後も1年以上続いていること、さらに、手術が終わって手術箇所が治ったとしても、術後の死亡のリスクは上がっていることが明らかになった。
●最初の研究は昨年の秋、アメリカ麻酔士協会の年次大会で発表されたもので、術中深い麻酔状態があると術後の死亡リスクが高くなり、そして、調査で対象となった患者は心臓以外の手術だったが、ほとんどの死亡原因は、心臓発作または癌であった。
●もう1つの研究は、the journal Anesthesia & Analgesia 1月号に発表されたもので、同じく深い麻酔をかけた患者で術後の死亡リスクが高くなり、さらに同様に、心臓以外の手術を受けた患者で1年以内に亡くなった患者の死亡原因は、心臓発作や癌であった。
●手術と麻酔が長期間にわたって何らかの作用を及ぼし、それらが死亡時期を早めているということは、外科のエキスパートたちのなかでも認められているというが、その詳しいメカニズムに関する発表はない。
●あるエキスパートは、麻酔と手術は、体内の炎症を一挙に引き起こす原因となっているのではないか、その炎症が心臓や呼吸器、癌の原因、痴呆(心臓以外の手術を受けた高齢患者で、認知機能の低下がみられたという報告もある)を起こしているのでないか、という。
●現段階では仮説だが、麻酔と手術は、ストレスに関連するノルエピネフリンのようなホルモンを放出する引き金となり、そのようなホルモンが、体内の炎症反応を活発にして、免疫システムの機能に害を及ぼすという。なお、炎症は心臓病や癌、痴呆など、多くの疾患を悪化させる原因として知られている。
●スタンフォード大医学部のGaba博士は、手術も麻酔も自然なことではないし、炎症の進行は術後も通常の状態に戻らず、長い間にわたって持続するという。また、ジョージア医科大のMeiler博士は、手術自体にも痛みやストレス、不安を伴い、さらに術中には、麻酔や輸血、低体温があって、これらがすべて、免疫システムをゆさぶっているのだといっている。
●いずれにせよ、術中の麻酔の危険性はかなり明白なのだが、とはいえ、どんな理由があれ、手術が必要な患者には麻酔も必要である。現在考えられる方法は、まずは、投与する麻酔薬の量を最低限にすることで、患者の麻酔レベルを正確に測ることができるモニター類の開発が進んでいる。
●次に、いささか対処療法的ではあるが、他の薬剤によって麻酔の悪影響を防ぐ方法で、抗高血圧薬であるβブロッカー薬などを術前に処方すると、心臓以外の手術患者の術後死亡リスクを減らすことができるという。βブロッカーは、術中の心臓へのストレスを軽減してくれるのだ。
●また、コレステロール値を下げる薬、スタチンでも、循環器系の手術患者に投与すると、術後の死亡率が改善されるらしい。
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